『ハチドリのひとしずく』(辻信一)~小さな水を集めるために

『ハチドリのひとしずく』(辻信一)~小さな水を集めるために

世界各地で自然災害が数多く発生しています。災害の状況を見る度に、地球が壊れてきている事を痛感し、私たち人間の無力さを思います。私たちにできる事は一体どんなことなのでしょう。

今回は、南アメリカの先住民に伝わるお話を、辻信一さんが監修した「ハチドリのひとしずく」を紹介したいと思います。

ハチドリのひとしずく

■ 「ハチドリのひとしずく」のストーリー
森が山火事となり、多くの動物が我先にと逃げ出しました。でも、ハチドリは口の中に一滴の水を含んでは火にかけ、また口に含んで…と何度も行ったり来たりを繰り返します。

ハチドリは中南米、北米に棲息する、体長わずか10センチ程度の小さな鳥です。その姿を見て、他の動物たちは笑いました。

「そんなことをして、一体なにになるというのか」

と。しかし、ハチドリは言います。

「私は、私にできる事をしているの」。

■ 「ハチドリ」の小さな体と大きな力

「ハチドリのひとしずく」は短いお話ですが、とても大切な事を教えてくれます。辻信一さんの解説にもあるように、笑った動物たち=悪人、というストーリーではないのです。ハチドリのひとしずくはとても小さいけれど、動物たちも力を合わせたら、たくさんの水を運ぶ事ができる事を知らなかっただけ…。

この物語は山火事という内容でしたが、何だか今の地球ととても似ていると思いませんか?

壊れゆく地球、そしてこのままではいけない、早く何とかしないと、と警鐘を鳴らす人間達。

あなたはハチドリですか?

それとも、

「何になるというのか」

と笑っている動物たちの方なのでしょうか。

知らないこと=悪人、ではありません。知っていながら何もしない事が、悪人だと思うのですが、あなたはどう思いますか?

■ 私たちは「ハチドリ」になれるのか?

私たち人間にできる事は本当に少ないです。手は二本しかないし、その手でできる事はほんの僅かです。

でも、ハチドリが毅然と、

「私にできることをする」

と言ったように、ほんの少しの行動が山火事を消す事もあるでしょう。

以前読んだマンガで、

「やらない善より、やる偽善だ」

といった台詞がありました。偽善でも何でも、燃えているのは私たちの森(地球)なのです。

どんなことでもいい。何かしら自分から始めてみよう。

「ハチドリのひとしずく」はそういった事を、たった17行の物語で教えてくれるのです。

■ まとめ

「ハチドリのひとしずく」は多くの人々の共感を得ています。やはりその理由は、多くの人が、

「このままでは地球が燃えてしまう」

と危機感を抱いているからなのではないでしょうか。

この本を監修した辻信一さんは「自分にできるひとしずく」として、多くの人にハチドリの物語を伝えるためにこの本を作ったそうです。

立ち向かう火事はとても大きくて熱い。でも、周りには多くのハチドリが側にいます。ほんの少しの勇気を持って、火事を消すために動いてみませんか?

以上、辻信一さん監修、「ハチドリのひとしずく」を紹介しました。

『チロヌップのきつね』(高橋宏幸)~くらい時代を生きた狐の親子

『チロヌップのきつね』(高橋宏幸)~くらい時代を生きた狐の親子

日本の絵本は悲しいストーリーが多い気がしますが、そう思いませんか?赤鬼は人間という友人を得た代わりに、親友だった青鬼を失い、ごんぎつねは撃ち殺されて終わってしまいます。
今回は、そんな切なく悲しい結末を迎えるお話「チロヌップのきつね」(作・たかはしひろゆき)を紹介します。

チロヌップの狐

■ 「チロヌップのきつね」あらすじ

「チロヌップ」というのは、アイヌ語で狐を意味するそうです。チロヌップは狐がたくさん生息する島。春になるときつねざくらの白い花が咲いています。

夏の間、チロヌップに住んで魚をとっている老夫婦のもとに、ちいさな子ぎつねが迷い込んできます。老夫婦はあどけない子ぎつねを、

「ちびこ」

と呼んで可愛がり、首に赤いリボンときつねざくらの花をつけてあげました。

やがて夏が終わり、老夫婦は島を出ました。ちびこは狐の両親と兄さん狐の元に帰り、平和な毎日を過ごします。

しかしある時、空気を引き裂く銃声が。人間たちが島にやって来たのです。

銃に撃たれたことで兄さん狐は殺されてしまい、そこから逃げる途中、ちびこは人間がしかけた罠にかかってしまいます。父さん狐はちびこを人間から守るためにわざと飛び出して行き、とうとう戻ってきませんでした。

残された母さん狐も傷を負っていますが、ちびこのためにエサを運び続けました。雪が降り出したチロヌップに、充分な食料はありません。二匹は身体を寄り添い合い、きつねざくらのように舞い落ちる、白い雪を見ていました。

春になっても、老夫婦はチロヌップにやって来ませんでした。戦争が激しくなって、島に来る事が出来なかったのです。

それから年月が経ちました。ようやく島にやって来た老夫婦が見たものは、島一面に咲くきつねざくらの花でした。

丘の片隅には、おおきなきつねざくらの固まりがひとつ、ちいさなきつねざくらの固まりが、寄り添うようにもうひとつ。

ちいさなきつねざくらの固まりには、赤いリボンのような桜色の花がぽつんと一輪。

そして老夫婦の足下には、ボロボロにさびた、鎖がひとつ。

■ 誰がちびこ達を殺したのか

読むと胸が痛くなるお話です。何度読み返しても、涙が止まらなくなってしまいます。

それと同時に、人間の罪深さと愚かさになんとも言えない怒りが湧きます。

作者自身も、

「密猟者が仕掛けた罠と、それにかかって殺された子ぎつねの白骨体を見た怒りが物語を作った」

と記されています。

人間の身勝手な行動が、こうした罪もない動物を傷つけて殺してしまうのです。

罠だけではありません。「チロヌップのきつね」は戦争を描写しています。結果的に、ちびこ達を殺したのは誰でもない、人間全てとも言えるのかもしれません。

■ 私たちに何ができるのか?

「チロヌップのきつね」は、人間の罪深さや、狐の親子の深い愛情を淡々とした文章で書かれています。

徐々に壊れていく地球。環境問題が深刻になり、犠牲となる動物の保護が叫ばれています。

この物語が発表されたのは1972年の事でした。その時から私たちは、何かする事が出来たのでしょうか。この物語を、全体を覆う「悲しさ」だけに終わらせずに、「では、どうしたらいいのか」を考えたい。

「チロヌップのきつね」は一人でも多くの人に読んでほしい、次の世代にも語り継ぎたい名作です。

※「チロヌップのきつね」は絵本版だけでなく、アニメ版、新書版、物語版など、様々な形で出版されています。

アニメ 物語 新書

『いけちゃんとぼく』(西原理恵子)~少年の成長と切ない恋の絵本

『いけちゃんとぼく』(西原理恵子)~少年の成長と切ない恋の絵本

今回は、西原理恵子さん作「いけちゃんとぼく」を紹介します。

「いけちゃんとぼく」の作者、西原理恵子さんは漫画家として多数の著書を発表してる人気漫画家です。その西原さんが初めて描いた絵本が、今回紹介する「いけちゃんとぼく」です。映画化もされたので読んだ事がある人も多いのではないでしょうか?

いけちゃんと僕

「いけちゃんとぼく」がなぜ多くの人の心に響くのか、あらすじと考察などを紹介します。

■ 「いけちゃんとぼく」のあらすじ

主人公、「ぼく」の周りには理不尽な事がいっぱいあります。毎日たたかれて、フクシューをして、ひとりぼっちで、お父さんが死んでしまって…。

でも、「いけちゃん」という、なんだか変な生き物が側にいるから、「ぼく」は元気に成長していきます。

「いけちゃん」はとってもおかしなな生き物。困るとちいさくなるし、怒ると丸くなる。変幻自在で、温かいとよくふくらむし、時々さみしそうな目で「ぼく」を見ています。

ストーリーはそんな「ぼく」の成長と、それを見守る「いけちゃん」を描いたものです。

物語の最後には、いけちゃんが何者なのかを語られるのですが、それがいけちゃんとぼくとのお別れの時でもあります。

■ 「いけちゃんとぼく」の魅力

西原理恵子さんの絵はとても独特で、初めて読むと、慣れるまで少し時間がかかるかもしれません。しかしその語り口は、マンガの表現とは全く違って、穏やかで詩的な文章がとても多い事に気づかされます。

「わすれないでね。すきだとかならず、かえってこられるの」

「男の子は走るのが急に早くなって、あっという間にどこかへ行っちゃうって。」

これらの台詞はいけちゃんのモノローグですが、もうこれはラブレターのような文章ではないですか。絵柄とのギャップがとても面白く、気づいたら西原ワールドにハマっている事間違いナシです。

■ 「いけちゃん」はどこに行ってしまったのか

「さよなら。私たち、とても短い恋をしたの」

いけちゃんの切ないお別れの言葉です。

「あなたといる時間がとても短かったから、あなたにもう一度会いたかったの。」

いけちゃんはそう言って、ぼくの目の前から姿を消しました。

その後もぼくの目の端に、いけちゃんの気配を感じますが、ぼくが大学生になって、女の子に恋をしたとき、いけちゃんはとうとう見えなくなってしまいました。

いけちゃんは、どこに行ってしまったのでしょうか。

作者の西原理恵子さんは、いけちゃんのモデルは、西原さん自身の子どものイマジナリーフレンド(子どもの時だけ見える、空想の友達)であったと語っています。

その事を考えると、いけちゃんは子どもの頃のぼくの目にしか見えず、大人になったその時、姿を消したと考えられます。

ただし、いけちゃんはイマジナリーフレンドといった存在ではなく、また未来で出会えるであろう人です。果たしてその時、「ぼく」はいけちゃんの事を覚えているのでしょうか。

■ 「いけちゃん」の正体は・・・

今回は「いけちゃん」の正体については具体的に指すのはやめました。ネットで調べたらすぐに分かる事ですが、いけちゃんの事を一番適切に表している言葉はやはりいけちゃん本人であり、それを表現した西原理恵子さんであるからだと思うのです。

ぜひ「いけちゃんとぼく」を読んでみて、いけちゃんが何者なのか、ご自身の目で確かめてみて下さい。

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以上、「大人にこそ読んでほしい!おすすめ大人向け絵本10選」をご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?

1冊でも心に響く絵本をご紹介できていたら、これ以上のよろこびはありません。

気になった絵本があったら、ぜひ書店で、図書館で実際に手に取ってみていただけたら幸いです。